top of page
検索
  • info485417

回を重ねるごとに研ぎ澄まされる充実のステージ。

更新日:2023年3月9日

2023 守屋純子オーケストラ定期公演『Gershwin's World』

2023.2月17日(金)

渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

文:BIGBAND! 編集部



『続けていく』ことはしんどい。それが自身の存在を賭けたテーマや、好きでたまらないことであったとしても。いや、むしろだからこそ、なのかもしれない。けれど続けることでしか手に入らない「お宝」は確実にある。『2023守屋純子オーケストラ定期公演』を聞いてそう思う。

1st-Stageは守屋さんの代表的なオリジナル楽曲を集め、2nd-Stageは全てジョージ・ガーシュインをフィーチャー。書き下ろした新作アレンジを揃えた。今回特に感じたのはステージ構成の巧みさだ。選曲、曲順、セットの長さ、すべてツボを押さえた小気味の良さで、飽きることなく2時間が瞬く間に過ぎた。

前半は明るく洒脱な作品が多い中、久々に聴く"Another Side Of The Winner"(別名:裏家康公)がひときわ印象的。「裏家康を聴くことができて嬉しかった」というファンも多いこの曲は、2015年に組曲のなかの1曲として作曲され、苦労人・家康の暗部を表現したというもの。昨今の家康ブームだけではなく、問題解決のめどが立たない暗い世相と相まって、ソリスト岡崎正典さん(ts)のビターな味わい、佐野 聡さん(tb)の重厚な音色がぴたりとはまり、胸に迫るものがあった。

ジョージ・ガーシュインの書き下ろしアレンジによる2ndになると、さらに充実した展開となる。守屋さん曰く「ガーシュインには超有名曲と、大有名曲と中・小有名曲しかない」。つまりどの曲もすべてが人気曲。料理する側のプレッシャーもハンパない、ってことなのか。しかし、超有名曲 "Summertime"のアップテンポの三拍子に意表を突かれ、近藤和彦さん(ss)のスリリングなソロとともに、気づけばその斬新さに夢中で聴き入ってしまった。

そしてここからが本公演の真骨頂。

一部のメンバーがステージを後にし、サックス3、トロンボーン1、トランペット1+リズム隊の中編成による"A Foggy Day"を演奏。続く"Embraceable You"はサックス隊のアカペラに終盤リズム隊が加わるという編成、そしてラストはビッグバンドに戻り、華やかな "I Got Rhythm"で終演。アンコールは守屋さんのピアノソロで締めくくられた。

編成を変え、いったんビッグバンドを「解体」したことによって、各楽器それぞれの特性、日本を代表するプレイヤーの力量の高さ、ガーシュイン楽曲の多面的な魅力が浮き彫りとなり、アレンジャーの手による音楽の無限の可能性を見せてくれたのでは。"Embraceable You"の完璧な和音の響きに、固唾をのんで聴きいる観客の様子が心に残った。

今回、全ステージを通して際立っていたのはリズムセクションの素晴らしさ。時にはユーモラスに、時にはエキセントリックに響く岡部洋一さん(perc)のいつもながらの的確な音のチョイス。冷静かつ情熱的な安カ川大樹さんのぶ厚いベース。そして初めて聴かせていただいた加納樹麻さんのドラムスの爽快な疾走感は、今後もこのオーケストラの欠かせない個性となっていくに違いない。

2000年から休むことなく毎年行われてきた定期演奏会。私が足を運んぶようになってからも10回は超えていると思う。年を追うごとに充実していくアレンジ、工夫が凝らされたステージ、演奏から垣間見えるメンバー同士の信頼感。そして何よりもホールに響くアーティストへの敬意に満ちた声援と拍手。終演後、ホールから出てきた観客の間にかよう空気は、まるで家族のような暖かさだった。

どれをとっても継続と錬磨でしか手にすることのできない宝物だ。

変貌し続ける渋谷の街明かりのように、今夜の余韻が胸の中でひときわ輝く。


Member

守屋純子 (p,arr) 加納樹麻 (drs) 岡部洋一 (perc) 安カ川大樹 (b)

近藤和彦 (as,ss,fl) 緑川英徳 (as) 岡崎正典 (ts,cl) 吉本章紘 (ts.fl) Andy Wulf (bs)

佐野 聡 東條あづさ 駒野逸美 (tb) 山城純子 (b-tb)

佐久間 勲 木幡光邦 奥村 晶 岡崎好朗 (tp)


Set list

1st.

1. I Love You

2. Michel

3. Future And Hope

4. Duke Ellington’s Sound Of Love

5. Another Side Of The Winner

2nd.

1. A Foggy Day

2. They Can’t Take That Away From Me

3. Summertime

4. A Foggy Day(octet+perc)

5. Embraceable You(5sax+piano trio)

6. I Got Rhythm

EC. Someone To Whatch Over Me 


photo by amigraphy






bottom of page