top of page
検索
  • info485417

スティーブ・ガッドのプレイはやっぱり「想像していた何倍もスゴかった!」

BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA

directed by ERIC MIYASHIRO with special guest STEVE GADD

2023.1月17日(火)

BLUE NOTE TOKYO

文:BIGBAND! 編集部


45年ほど前のことです。ロックしか知らなかった高校生の私はバンド練習を終え、メンバーのウスイ君とマツナガ君に半ば強引に、吉祥寺にあったジャズ喫茶に連れて行かれたのです。日曜日の午後、店内はほぼ満席で2人とは別々の席に案内されてしまいました。

たばこの煙で充満する薄暗い空間で、眉間にしわを寄せて座っている大人たちに囲まれ、心細く苦いコーヒーをすすっていました。巨大なスピーカーから大音量でまくし立てる音楽はいわゆるジャズ!聴きなじみのなかったロック少年の耳にはどれも同じように聴こえピンときません。「来るんじゃなかった‥‥」と後悔の念が頭をよぎった頃、それまでとは明らかに違うサウンドが流れてきました。「ドラムが生き生きと歌っている!」。

閉じかけていた耳が全開に開いたことを今も覚えています。ジャズの「チーチッキチーチッキ♩」やロックの「ドンダンドンダン♩」とは明らかに別モノ。音色、音量すべてが表現豊かでフロント楽器と対等に会話しているようです。興奮しながら店の外で二人に「あれ誰っ?!」と言って教えてもらったのが『Jun Fukamachi & The New York All Stars Live(1978)』。今から思うと信じられないようなスタープレイヤー揃いのメンバーで、もちろんドラムはスティーヴ・ガッドです。この日の衝撃的な出会いがあって、あんなに好きだったロックを一切聴かなくなってしまい、ガッドが入っているレコードを探し求めるワクワクする長い旅が始まるのです。

そんな私にとって、今日ブルーノート東京で行われた公演に対する期待はとても大きく楽しみにしていました。もちろん現在に至るまで、ガッドが参加する幾多のステージを観てきました。しかし、今日はさらに特別な日。数年にわたりその活動を追い続けてきた、エリックミヤシロさん率いるBLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA との競演です。私にとってはまさに夢の競演です。

ガッドとビッグバンドといえばA Tribute To The Music Of Buddy Rich (1994年)での快演を思い浮かべる方も多いと思います。独自の演奏スタイルで老舗ビッグバンドに相対した天才ドラマーの神髄を見せてくれたすばらしいものでした。「この重いリズムがビッグバンドにどうなの?」という意見も当然あったと思います。サスティーンを押さえたシンバルやミュートがかかったタイコによる四拍が極端に強調されたリズムなど、アマチュアビッグバンドだったら嫌がられそうなことばかり。その場で聴いたらどう感じるのだろうかと・・・とても興味がありました。

この日のステージはバンドのテーマ曲Blue Horizonでスタート。スティーヴ・ガッドの姿はまだなく、レギュラーメンバーの川口千里さんがドラムを叩きます。彼女も軽快でありながらずっしりとしたリズムをもった大好きなドラマー。今やこのビッグバンドサウンドの重要なキャラクターを担っています。そして3曲目のBeirutからいよいよスティーヴ・ガッドの登場です。ドラマー聞き比べができるのも本日のお楽しみです。ほとんどリハーサルもできていないという前情報があったので「抑え気味に入るのかな?」と高をくくっていました。が、そこはレジェンド!キックとスネア、ハイハットの入りにまったく躊躇がありません。PAもドラムセットを立たせているのかもしれませんが、いつもの“ガッド音”が大きく会場に響き渡ります。しかしながらこの直後、このバンドでは感じたことのないある違和感を覚えました。「ドラムの拍がやや遅れてる?」あきらかにバンドのリズムとの間にズレがあります。もしかして「相性悪いのかな?」などと邪推し始めているのもつかの間、徐々にバンドがガッドのリズムに融合しはじめたのです。バンド全体がいつもとは違う僅かなタイミングを感じ取ったんだと思います。こんなことが瞬時にできるのはBLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRAだからこそなのでしょう。気がつくと違和感など消え失せ、えも言われぬ気持ちの良いグルーブ感が生まれていました。このバンドの特長でもある軽快で伸びやかなリズムを保ちつつも、そこに『異分子の作用』による重厚な粘りが加わり、今まで経験したことのない変化をもたらしているようでした。その後、アンコールのWay Back Homeに至るまで、一寸の隙もない最上級のビッグバンドサウンドを堪能することができました。

かつて六本木にあったPIT INNの最前列ではじめて観たスティーブ・ガッドのプレイに「想像していた何倍もスゴかった!」と興奮した、あの頃とまったく同じ思いで今日も帰路につきました。そして、3日後には45年前ガッドを教えてくれたウスイ君と同会場にSTEVE GADD BANDを観に行きます。マツナガ君が生きていたら3人で行きたかったな‥‥。



BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA

エリック・ミヤシロ(tp, cond)

スティーヴ・ガッド(ds)※スペシャル・ゲスト

本田雅人 寺地美穂 ※1.17のみ 小池 修 ※1.18のみ 鈴木 圭 高尾あゆ 渡邉瑠菜(sax)

小澤篤士 田沼慶紀 山崎千裕 松井秀太郎(tp)

中川英二郎 半田信英 阿部史也 小椋瑞季(tb)

宮本貴奈(p)川村 竜(b)川口千里(ds)


Set list

1. Blue Horizon

2. Lingus

3. Beirut

4. Oops

5. Trains

6. Watchingthe River Flow

7. Spain

EC. Way Back Home 


Photo by Yuka Yamaji




bottom of page