BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA
directed by ERIC MIYASHIRO with special guest RICHARD BONA
2015.1.7[wed] at BLUE NOTE TOKYO[東京・青山]
喜田太郎
表参道を上りながら、こう考えた。 主張だけでは角が立つ。日和見主義では流される。意地を通せば立場が窮する。とかくアマチュアバンドはむずかしい。むずかしさが高じると、易いところへ引っ越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、開き直りが生まれて… 私の考えがここまで漂流してきたときに、夕暮れのブルーノート東京が見えてきた。今夜は、エリック・ミヤシロ氏が率いるAll-STAR JAZZ ORCHESTRAのリハーサルを観覧させていただくのだ。プロのリハとはどういうものだろうか。ライブとは違った期待感に胸が高まる。それぞれに磨き抜かれたプロたちが集まるわけだから、無闇に、角が立ったり、流されたり、窮したりはしないのだろう、などと妄想しながらホールへ降りていくと、ステージからウォームアップをするいい音色が交じり合って聞こえてきた。 All-STAR JAZZ ORCHESTRAの今回のショーは、天才的なベーシストでありシンガーソングライターでもあるリチャード・ボナ氏をスペシャルゲストに迎えたまさに夢の共演である。新春にふさわしい豪華で熱いステージになりそうだ。そのリハーサルが、本番前日の午後からブルーノート東京で行われていた。 ロビーで待合せていたBIGBAND!誌の編集子とともに会場に案内されると、先に到着していた同誌編集長と某バンドのメンバー松岡P子と合流。ステージ上にはすでにずらりとオールスターたちが着席して、それぞれにウォームアップをしている。当たり前だが、その音色がどれも良い。ツヤツヤしたり、キラキラしたりしているようなのだ。また、リラックスしたラフな中にも緊張感の漂うなんとも言えないステージ上の雰囲気を見ていると、これがプロのリハーサルなのかー!と、なにやらライブとは違った興奮にとらわれてしまう。隣のP子はその場の雰囲気にすっかりのぼせてしまったのか、今回のステージのフライヤーとステージ上を交互に指差して「出てる人はみんな有名人や」などと言う。「当たり前だ、オールスターなんだから」などと、地に足のつかない会話をしていると、おもむろに演奏が始まった。 ジャコ・パトリアスの曲だ。「すごい。初見かな?初見やのにぴったり合ってる」とP子は目を潤ませている。まずは一度演奏してみているようだが、迫力がすごい。オールスターの存在感というものか。昨年のJAZZ AUDITORIA 2014で観たときとは、また違った迫力がある。 一曲ごとに、演奏を終えると、気になる箇所にチェックが入る。リズムや音の区切りの位置など、曲の要所を確認して、演奏して、調整するという作業が繰り返される。曲の細部が的確に調整されて、目指す姿に整えられていくのは、見ていて気持ちのよいものだ。ごく簡単なひと言でお互いの意図が通じていく。さすがにプロの技だ。アマチュアでは、これほどテキパキとは仕上がっていかないだろう。 おもしろかったのは、音の連なりにチェックを入れていたこと。「そこは音重視じゃなくて、形重視で。シャララララ〜みたいな」と、ステージ上のエリック氏。身振りや仕草も交えて、演奏を形にしていく。当たり前のことなのだが、初回の演奏よりも、良く、まとまっていく。最後にもう一度通して演奏されると、初回の演奏とは断然違っている。短時間でこうまで引き締まるのかと驚かされる。「リハでこれくらいすごい演奏やけど、プロやから本番はもっとすごいんやろね」とP子が身悶えしている。リハの向こうに、明日からの本番のステージを想像すると、たしかにすごいことになりそうだ。 休憩に入ったエリック氏に編集子が訊ねると、今回のジャコの楽曲はエリック氏が採譜してアレンジをしていると言う。「ジャコは頭の中にスコアがあって、演奏しながら変更したりするから、聴いて採譜するしかないのだ」とか。「(譜面作りに)今朝は5時までかかったよ」とにこやかに笑っている。リハの居心地の良い空気はエリック氏の人柄から来ているのだろうと思わせる笑顔だ。 そうこうするうちに、待ち望んでいたリチャード・ボナ氏が到着。空港から直行したという。「時差ボケで、気を許すと眠っちゃいそうだ」などと話しながらもさっそくステージへ上がる。会場にいる全員が拍手で迎えた。ボナ氏が加わったことで、ステージの上の空気が変わる。オールスターたちの集中力がさらに高まったようだ。 曲の全体構成を説明して、ボナ氏が気になる箇所を確認していく。ある曲では、ベースの納浩一氏に「ユニゾンで一緒にやろうよ」とボナ氏から提案が。楽しくやろうというボナ氏の気分がオールスターたちにも伝わっていく。リハとはいうものの、演奏に熱気が加わっていく。 今回のステージではボナ氏の歌も披露される。ボーカル曲のひとつは、日本の観客にもおなじみのあの曲だったが、ボナ氏が歌い出しを何度か入り間違ってしまったのは、リハならではの光景か。それでも歌い出せばその声には、ベースの音色より魅力的とも言えるほどの存在感があった。本番のステージではこの声がどのように響くのか… 初めてのリハーサル観覧は、あっという間に感じたが、実際には3時間ほどにもなっていた。我々が観覧したのは夕方からだったが、バンドは午後の3時ごろから会場に入っていたそうだ。実に半日ほどの時間がかかっているのだ。しかもリハは本番当日にあたる翌日も続くという。演奏をしながらのリハーサルはそのうちの数時間だとはいえ、労を惜しまず力を注いでいたオールスターたちの姿からは、ライブのステージとはまた違った充実感が感じられた。「プロほど(アマチュアよりも)すごい努力してるんやなあ」とP子。まったく同感である。「本番のステージは間違いなくすごいものになる」と熱く語らいながらブルーノート東京を後にしたのであった。 Eric Miyashiro(conductor, tp) Masato Honda、Kazuhiko Kondo、Osamu Koike、Osamu Yoshida、Takuo Yamamoto(sax) Isao Sakuma、Shiro Sasaki、Masahiko Sugasaka、Sho Okumura(tp) Yoichi Murata(、Eijiro Nakagawa、Satoshi Sano、Junko Yamashiro(tb) Masaki Hayashi(p) Koichi Osamu(b) Tappi Iwase(ds) Richard Bona(b,vo)
文責:喜田太郎 アマチュアビッグバンドでギターを担当。
Photo:Akira Tsuchiya
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