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日本のビッグバンドの歴史と幅広い音楽性を実感

BIG BAND FESTIVAL 2015 Vol.17 2015.4.25[sat]文京シビックホール 大ホール ジーコ伊勢

 4月25日(土) 、文京シビックホール 大ホールで17回目のビッグバンドフェスティバルが開催された。  オープニングは慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイエティで、エリントン楽団のテーマ曲「A列車で行こう(Take The A Train)」でスタート。みずみずしい演奏で軽快に「ビッグバンド列車」の始発が発車し、見事に会場のジャズファンを乗せた。次の「Facebook Generation」は、若手ギタリストで作曲家のフランキー・ルソーの楽曲。緻密なアンサンブルと個性的なソロを展開した。ライト・ミュージック・ソサイエティは海外の若手・中堅作曲家の作品をいくつも演奏していて、2014年9月にはルソーを招いて演奏している。三曲目は「No Count」。日本ジャズ界のレジェンド、慶大出身の北村英治がクラリネット独自の華麗な音色をやさしく丁寧に奏でる。客席からは微笑ましい組み合わせと写ったが、学生たちの緊張はいか程のものか。最後は、今回の司会を務めた森口博子がスタンダード曲「All of You」を明るい歌声とエンタテイナーらしいパフォーマンスで締めくくった。  次に登場した本田雅人B.B.Stationは、本田がシャープス&フラッツを経てT-SQUAREを脱退した1997年に、初めて取り組んだプロジェクトで、メンバーを固定せず、幅広い世代のミュージシャンと交流できるような存在にしたい、という思いで命名されたもの。超絶技巧を駆使した各スタープレイヤーの演奏が光を放ったが、特に中川英二郎のトロンボーンという楽器の可能性を拓く様な繊細なパッセージ、つややかな音色、表現の豊かさには驚かされた。本田は本邦最高峰のサックスの実力を披露し、創造的なサウンド、エンターテイメント性を備えたパフォーマンスはビッグバンドファンだけでなく、フュージョンファンも驚喜させたことだろう。エンターテイメントといえば、エリック宮城のトランペットを幾つも持ち替えながらのプレイ、最高音のビビットな音色と音の伸びなど、本場で磨きをかけた観客を引き込むステージングといえるものだった。  3番目にバンド結成65周年の日本のラテンビッグバンド界の生きる金字塔、見砂和照と東京キューバンボーイズが真っ赤なジャケットで登場。「Mambo No.5」や「Bigin The Bigin」など、思わず踊りたくなる様なラテンの定番曲を安定感のある心地よい演奏で披露し、オールドファンの期待に答えた。トランペットのルイス・バジェら実力のある若手とベテランが融合し、現在進行形のバンドとして色彩豊かで華やかなステージを見せてくれた。途中、岸のりこがコーラスのラス・ペルラスをバックに、スタンダート曲「Besame Mucho」「Quzas Quzas」「Amor」をメドレーで歌い、厚みのある伸びやかな歌声を響かせた。1960年前後の日本映画の中で登場する生演奏を聴かせる粋なナイトクラブやキャバレーでは、必ずと言っていい程、ラテンバンドが演奏をしていた様な気がするくらい、ビッグバンドといえばキューバ音楽に象徴されるラテン音楽、といった印象があり、何とも懐かしく幸せな気分にさせられた。  最後に森寿男とブルーコーツ。1946年に発足し、秋吉敏子等、数多くの有名な音楽家を輩出したことでも知られる日本のビッグバンドの名門である。心の奥に語りかけるような、やさしく暖かなサウンドを届けてくれた。各楽器の音量を抑えながらも、クリアーにそしてストレートに響くサウンドはバランスに優れ、洗練された錬金術を思わせるものであった。編曲は羽毛田耕士。この見事なアンサンブルは伝統と経験のなせる技であろう。会場の広さや観客の耳を考慮するという意味で、若い演奏家たちの良い手本となるものだ。「Caravan」ではバンド全員が、最後の曲「One O’Clock Jump」ではトロンボーン全員がステージのフロントに立つなど名門ならではの演出を見せてくれた。途中で、ミュージカル歌手の新妻聖子がゲストで参加し、ジャズボーカルのスタンダード曲「Fry Me To The Moon」「Lover, Come Back To Me」、そしてミュージカル『キャッツ』の劇中曲「Memory」を熱唱、何と言っても最後の「Memory」で本領を発揮した。赤いドレスの新妻と白いドレスの森口は今回のステージの二輪の花としてステージを明るくさせてくれた。  また、このコンサートを象徴する印象的なことがあった。戦後のビッグバンドの全盛期を代表するシャープス&フラッツを率いた原信夫が客席に来ていて、その知らせとともに功績をたたえる観客全員からの暖かい拍手が起こった。ジャズファンの万感の思いが伝わり、心を熱くさせる一幕であった。  同時代を意識した快活な学生バンド、先鋭な実力派バンド、伝統ある粋なラテンバンド、日本を代表する最古格のバンドというそれぞれの個性をもった4つのビッグバンドが一同に会した華やかな饗宴。そのパフォーマンスを一つの空間の中で体験することで、音楽を聴くことの楽しさと同時に、日本のビッグバンドの歴史と幅広い音楽性を実感することができた一日であった。 [出演者] MC & Vo:森口博子 ゲスト:新妻聖子(vo) ゲスト:北村英治(cl) 慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサイエティ since 1946 本田 雅人B.B.Station 本田雅人、高橋弥歩、アンディ・ウルフ、鈴木 圭、鍬田修一(sax) エリック宮城、西村浩二、佐久間勳、奥村 晶(tp) 中川英二郎、半田信英、笹栗良太、野々下興一(tb) 秋田慎治(pf) 梶原 順(g) 井上陽介(b) 則竹裕之(ds) 見砂和照と東京キューバンボーイズ since 1949 見砂和照(cond) ルイス・バジェ、横山 均、石井 真、城谷雄策(tp) 大高實、早川隆章、内田日富、ジミー・セグトン(tb) 貫田重夫、 加塩人嗣(as)Hal斉藤、 五十嵐正剛、武田和大(sax) 平田フミト(pf)矢野顕太郎(ds) 武藤祐二(b)  納見義徳(bongo) 石川 浩(conga)斉藤 恵(timbales) ゲスト:岸のりこ(vo)with ラス・ペルラス(cho) 森寿男とブルーコーツ since 1946 森寿男(leader & cond) 羽毛田耕士、寺島基文、篠原国利、上石 統(tp) 岩崎敏信、内田日富、小林 稔、渡辺 亮(tb) 今野菊治、菊地 武、 田辺信男、 内山正博、五十井梧楼(sax) 内間 修(pf) 小高正志(b) 阿野次男(ds) ジーコ伊勢:(伊勢功治[いせ・こうじ]) 富山県生まれ。グラフィク・デザイナー、桑沢デザイン研究所非常勤講師。2013年、「マリオ・ジャコメッリ写真展」(東京都写真美術館)デザイン担当。著書に写真評論集『写真の孤独』(青弓社)、詩画集『天空の結晶』(思潮社)。『北方の詩人 高島高』近刊予定。






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