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余韻のある音たちが聴き手の中にスッと染みこんでいくサウンド

最終更新: 2020年5月28日

加藤真亜沙「アンモーンの樹 プロジェクト」

2018.10.10[wed] at 東京・六本木クラップス

文:今沢辰彦


 NY在住のピアニスト・加藤真亜沙のプロジェクトが、ようやく日本でお披露目となった。ピアノトリオでは昨年(2017)、一時帰国した際にも都内でライブを行っていたが、ホーンセクションを入れた8人編成でのライブは今回が初めて。出身地である名古屋ではブルーノートで、その後は横濱ジャズプロムナードでのステージを終え、ファイナルが東京という3都市での公演である。

 今回のツアーは「アンモーンの樹 プロジェクト」というタイトル。2016年に発売されたアルバム「Tales from The Trees / アンモーンの樹」収録曲を中心に新曲も交えたセットリストで、アルバムからは「Departure」「After the Rain」などが演奏された。この日、加藤はピアニスト、ボーカリスト、コンポーザー、バンドリーダーと一人四役の大活躍で、ツアーのファイナルを飾るのにふさわしく熱気溢れるステージとなった。

 バンドの編成はかなり特徴的といってよいだろう。フロント4管のうちブラスセクションはトランペット(フリューゲルホーン)とトロンボーン。ウッドウインドにはソプラノサックス(フルート、クラリネット)とテナーサックスという布陣。一見普通のようにも思えるが、サックスパートはアルトではなく、テナーの1オクターブ上の音域のソプラノ。その音色と音域を生かしたハーモナイズでアレンジしているこ

とが、独特な響きを生み出している。コード主体でプレイすることの多いギターも、かなりの頻度でメロディラインやそれに寄り添う音を奏でていて、和音のひとつとしての存在感がある。

 サウンドのオリジナリティを際立たせているのが、加藤自身の声だ。加藤は「ボーカル」と言っているが、ストーリー性のある歌詞を唱うのではなく、どちらかというと「ヴォイス」に近い。ピアノで奏でるメロディに乗せて、同じ音やハーモニーをつけて「歌う」もの。人間の声も楽器のひとつであると位置づけ、管楽器や弦楽器との質感の違いでサウンドに奥行きを持たせているのだろう。フロントのホーンセクションとギター、そして加藤自身のボーカルが幾重にも重なり合って美しい旋律を紡ぎ出している。ジャズの世界ではオーソドックスな楽器を使いながら、カラフルで多角的な音の拡がりを狙ったアレンジが新鮮だ。

 プレイヤー視点で考えると、このフロントで演奏するためには非常に高い技術力、そして繊細な表現力が求められるように思えた。ソロのクオリティは言うまでもなく高いものが必要だし、ハーモニーやアンサンブルの一員としては、和声の中における”ベストな立ち位置”を瞬時に理解して、そのポジションで常に音を出し続けていなければならない。ホーンセクションのプレイヤーは原則的に単音楽器なので、(仮に演劇に例えてみるとして)和音の一部として”舞台上で演技”するときには、”ベストな立ち位置”や”いま出ている他の演者(=音)との距離感”などを感覚的に捉えて体が反応(=演奏)しないといけない…そんな緊張感があるのでは、と思わずにはいられなかった。

 加藤の楽曲は、強烈に特徴付けられるようなメロディラインや、スリリングな変拍子の連続という類のものではない。どこか懐かしさすら感じるものの、だからと言って耳馴染みの良い楽曲というのも少し違う。そこはかとなく残り香が漂い、余韻のある音たちが自分の中にスッと染みこんでいく。派手さはないが、ほんのりと温かみのある心地よさのようなものを感じたのは、私だけではないだろう。


加藤真亜沙 - piano/vocal

Jonathan Powell - trumpet/flugelhorn

西口明宏 (10/2, 10/6) / 馬場智章 - tenor sax (10/10)

吉本章紘 - soprano sax/flute/clarinet

駒野逸美 - trombone

荻原亮 - guitar

中林薫平 - bass

柴田亮 - drums



photo by Akira Tsuchiya


Tales from The Trees

SOMETHIN'COOL

1. Departure

2. Eshubeleke

3. Stray off in the Woods

4. Small Sky

5. Kodama

6. After The Rain

7. Girl Talk

8. Frostwork

9. Conception (日本限定ボーナストラック)