top of page
検索
info485417

オーソドックスなフォーマットに練り込まれた自由奔放な歌ごころと人間賛歌。

森田真奈美ビッグバンド with 市川 愛

2023.4月4日(火)

東京・COTTON CLUB

文:BIGBAND! 編集部



楽しい時間は、あっという間に過ぎる。

新幹線を降りた私は本日の会場“COTTON CLUB”へ直行。胸の内は京都の春の風景と豪華絢爛な“都をどり”の余韻でパンパンだった。だがひとたび着席して『森田真奈美ビッグバンド with 市川愛』の世界に向き合ったとき、圧倒的なチカラがぐいぐいとのしかかってきた。アンコールが終わった瞬間、京みやげ“心のくす玉”はパッカーンと大きな音をたてて弾け、会場いっぱいに桜吹雪と金銀紙吹雪を舞い散らす。

そしてなんだろう。あとに残るこの幸福感は‥‥。


森田さんが長くNYで活躍し、「報道ステーション」オープニング曲の作曲かつ演奏者であることは耳にしていた。今日初めてその音楽に触れて感じるのは、17人から成る伝統的なフォーマットを継承しつつも、いわゆる「ビッグバンドらしい展開」やキメごとから解放されている自由な響きだ。コンテンポラリーと呼ばれるクールで抽象化され、洗練された音楽ともひと味違う。むしろ人間くさい、歌ごころあふれる世界がそこにあった。


1曲目『You Are My Sunshine』のピアノソロで始まり、『Over The Whale』『Shima』とオリジナル曲が続く。『Shima』は森田さんが大切にしていた鳥の名前。フルート3本とバリサクのアンサンブル、フリューゲルソロ、ソプラノサックスソロといった多彩な響きと調和が新鮮だ。そこに描かれたのは鳥のさえずりだけでなく、心の奥に眠っている感情を揺り起こす “愛だけではないなにか”、そして誰もが共感せずにいられない“物語の気配”だった。

その感覚はボーカリストを迎えた4曲目からいっそう強くなる。どれも日本語の歌詞が印象的。「どうしても写っていない、この時からこぼれた哀しみ」に戸惑う『Photograph Lover』、恋人から月の土地をプレゼントされる『Moon Land』、軽妙なトークから歌〜演奏へとつがっていくユニークな『Caravan』。歌い手の言葉と、そこに絡んでくるサウンドの親和性の高さが、1曲1曲のストーリーを説得力のあるものに仕上げていく。

ラストナンバーのインスト曲『Wachusett』も例外ではない。マルチリードプレイヤー・石川周之介さんの炸裂する“極太”テナーソロに続くトロンボーンセクションのソリは、まるで本公演の「喜びの歌」のよう。4パートの和音の美に留まらない、各自のメロディーをそれぞれが高らかに歌いあげる構成は歌詞のない歌、文字のない物語ではなかったか。

一方、演奏自体はかなり硬派だ。ポップと見せかけ、実は難易度の高い譜面をさらりと演奏するメンバーの顔ぶれは、今のジャズシーンを牽引する実力派。もはや何拍子かさえ解らなくなる『My Favorite Things』に、歌詞を乗せて歌いきった市川愛さんの存在も圧巻だった。

アンコール曲『Goin' Home』のように、バイクの後ろに乗ったときの背中の温もり、駆け抜ける風の心地よさ、愛して、笑って、傷つき泣いて、何気ない日々が輝きを放つ普通の人々の普通の暮らしの愛おしさ。その全てを肯定する“人間賛歌”とも言うべき彼らの音楽世界が、終演後の会場にいつまでもぐるぐる映し出されている気がして、涙があふれそうになる。

かつてエリック・ミヤシロさんが「音楽は直接感情に訴えかけるもの」と語っていたことがあった。まさにそんな時間を過ごしていたのかもしれない。

ただひとつ残念なのは、このバンドの演奏を聴くことのできる機会は多くはないということ。ビッグバンドという音楽を継続しつづけていくことの難しさを改めて感じるのだった。


Member



森田真奈美 (p,arr) 寺尾陽介 (b) 工藤 明 (drs) 市川 愛 (vo)

八巻綾一 中園亜美 石川周之介 吉本章紘 宮木謙介 (sax)

張替啓太 和田充弘 上杉 優 山口隼士 (tb)

村上 基 赤塚謙一 谷殿明良 石川広行 (tp)


Set list

1st-set

1.You Are My Sunshine

2.Over The Whale

3.Shima

4.Photograph Lover

5.Moon Land

6.Caravan

7. Wachusett

Encore 

1.Goin' Home

2.My Favorite Things



Photo:Yuka Yamaji







Commentaires


bottom of page